「オンライン交流は、対面交流と同等、またはそれを越える成果をあげられるか?
〜多国籍企業の事例に学ぶ〜」
関西大学 吉田信介
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はじめに
ASEPにおける事前交流について、「どうすれば遠隔オンライン交流において対面交流と同等、さらにはそれ以上の成果を得ることができるのか?」また、「もしそれが可能であれば、それらをどのようにマネージメントすればよいのか?」について考察を行った。その際、日常的に海外とのオンラインによる協働業務を頻繁に行っている「多国籍企業」の事例から知見を得た。
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遠隔オンラインによるグループ作業の難しさ
一般的に遠隔オンラインでの協働作業は、対面によるものと比較して、より困難を伴うとされている(Hoegl, 2004)。その理由として、対面作業では、物理的距離が近く、それに伴う親近感の増幅、およびインフォーマルなインタラクションを随時行うことによる頻繁で緊密なコミュニケーション、および肯定的な人間関係の構築が可能となる。
これに対して、遠隔オンライン作業では、物理的距離やICTによる電子媒体コミュニケーションと調整の難しさ、ならびに信頼関係、および共通基盤の構築の困難さにより、親近感の弱化や、対立感の誘発を助長、さらには、時差によるスケジュール調整に伴うフラストレーションや種々の誤解が発生するという難しさがある。
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多国籍企業における事例
しかしながら、日常的にオンラインや対面による業務作業を行っている多国籍企業においては、国際遠隔オンラインチーム(数カ国にわたる混成業務)による業務作業が、対面チーム(国内における通常業務)と比較して、より良い成果をあげている事例がある。
Siebdrat (2009)によると、世界第3位のソフトウェア多国籍企業「SAP社」(売上高1兆6千億円、従業員が5万人)において、世界28カ所(中、仏、独、印、米、他)に配置されている80のソフト開発チーム(海外では現地採用)を対象とし、遠隔オンラインチームと対面チームの両チームについての1年間に渡る作業を分析した結果、遠隔オンラインチームは、適切な方法をとれば対面チームより顕著な業績を上げることができたとしている。
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国際遠隔オンライン業務の工夫
それではどのような時に遠隔オンライン作業が対面作業に勝るのであろうか。また、それらをどのようにマネージメントすれば良いのであろうか。
通常、グループ作業は、@「課題達成作業=task-related
process」(各メンバーの全力をあげてのチーム全体への貢献)、ならびに、A「社会・情緒的作業= socio-emotional
process」 (チーム全体としての社会・情緒的結束性の強化)の2つのカテゴリーに分類できる。
このうち遠隔オンラインチームの活動にとって重要なものは「課題達成作業」であり、特に、チームメンバーの相互支援、メンバー各自の努力、作業工程の調整、公平なメンバーの貢献度、課題達成のために必要なコミュニケーションのそれぞれについて、レベルアップを行った遠隔オンラインチームの作業結果は、常に対面チームを上回っていた。このことから、物理的距離やICT電子媒体でのコミュニケーション方法は問題ではなく、作業の「質」が重要であるといえる。
さらに組織的観点から重要なものとして、チーム要員としての自覚、メンバーの一体感、およびチーム全体の目標に一致団結して向かう姿勢を養う「社会・情緒的作業」があげられる。これにより、チームの結束性、アイデンティティ、インフォーマルなコミュニケーションが助長され、良好な人間関係が維持され、様々なコンフリクトへの対処法を生み出すができたとしている。
このような結果を出すためのマネージメントの手法として、グループの作業効率を高めるための課題達成作業、および社会・情緒的作業の両方の効率化のための最適なメカニズムの提示がある。特に遠隔オンラインチームがその機能的、構造的多様性への対処能力を発揮するには、メンバー同士による相互支援、コミュニケーション、調整によるチームワークが不可欠である。対面作業の場合、個人的衝突が発生しても、その場で簡単に修正できる可能性があるが、遠隔オンライン作業では、最新のICTを活用しても、異なる文化間で、物理的距離のあるもの同士による作業には困難が伴う。そのため、遠隔オンラインにおける理想的な作業形態は、最初に(できれば対面で)「プロジェクト・キックオフ・ミーティング」を行い、インフォーマルなコミュニケーション、チームのアイデンティティ、ならびに結束性を養い、その後のフォーマルな作業で活用する必要があるとしている。
以上のように、遠隔オンラインチームは、適切な方法と人員配置を行えば、対面チーム以上の成果をあげることができるが、そのためには、遠隔オンラインチームが社会・情緒的作業と課題達成作業を適切に配置することが必要条件となる。
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ASEPにおける実践
以上のような多国籍企業における業務形態を今回の関大チームの事前交流にあてはめてみると、多くの局面で重複するものがあった。:
@
最初、Facebookにより、文字と写真による自己紹介、インフォーマルなコミュニケーションがあり、「社会・情緒的作業」が行われた。
A
次に両方のチーム全員参加による「プロジェクト・キックオフ・ミーティング」がSkypeミーティングにより行われ、自己紹介、インフォーマルなコミュニケーションを伴うオンラインでの「社会・情緒的作業」が行われた。
B
その後、日常的にはFacebookによる「課題達成作業」が行われ、定期的にSkypeミーティングによる「社会・情緒的作業」を兼ねた「課題達成作業」が行われ、徐々に相互の主張が集約され、プレゼンテーションの内容が調整されていった。特に、Skypeミーティングでは、複数回コンフリクトが発生したが、その際には、互いのチームで意見調整をしてから解決していくことができた。このことは、遠隔でも対面交流の成果にある程度近づくことができることの証でもあるといえよう。
C
この間、国内チームのメンバー間では、「課題達成作業」の一環として、対面以外に、Lineによる報告、連絡、相談が日常的に行われ、それらの結果はゼミのDropboxにアップされ、いつでも参照できるようにされた。
このことから、事前交流においては、遠隔オンラインにより、ICTを活用しながら、課題達成作業、および社会・情緒的作業が適切に使い分けられることにより、両チームの結束性と良好な人間関係が構築した上で、チームメンバーの相互支援、メンバー各自の努力、作業工程の調整、課題達成のために必要なコミュニケーションをタイミング良く取ることにより、相互の主張の合意を得ることができる可能性を示唆しているといえよう。ただし、最終的な目標であるプレゼンテーションの完成には至らず、音声を含むリハーサルについても現地での対面交流を待たねばならなかった。
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結論と今後の課題
物理的距離を越えたICT活用による遠隔オンライン交流においては、条件が揃えば対面交流に劣らぬ成果をあげることができ、今後これらの知見を事前交流活動に活用できることが示唆された。
今後の課題として、毎回、現地での限られた時間の中での、プレゼンテーションの最終版完成と音声を伴うリハーサル実施が困難であり、特にホームステイ滞在者の場合、チーム全員が集合しての打合せと練習が難しいこと、各チームが当日の本番直前まで練習を行うため、他チームの発表を聴くことの大切さを軽視しがちであることへの対応があげられる。
そのため、事前交流においては、個人ユーザのレベルでは、文字チャットとしてFacebookやLine、ビデオチャットとしてSkypeを継続して使用し、同時に例えばGoogle Hangoutによる複数地点でのビデオ会議、およびデスクトップ画面共有による表計算やプレゼンテーションなどのOffice系ドキュメントのリアルタイムでの編集共有機能を活用することが考えられる。これにより、事前にプレゼンテーションを完成し、リハーサルを行うことで、現地での社会・情緒的対面交流により多くの時間をあてることが可能となる。そして、これらの実践を通じて、双方のチームメンバーは、国際的なネットワークの一部であるというグローバル・マインドセットを習得することで、国際的な多様性に適応した態度が育成され、国際交流をさらに促進させることができるといえよう。
以上