生徒達が継続して創るASEP

         石川県立鶴来高等学校 林 道雄

 

毎年、クリスマスが近づく頃になると、私はドキドキ、ワクワクした気分になる。また、台湾の仲間達に会える。そして、生徒達の笑顔に逢える。また、ASEPが始まるのだ、と。

ASEPには、3つの大きな特徴が有る。

第1には、2カ国の学校の生徒が議論を深めて1つのプレゼンを作り、発表をする、という点である。当然、その過程では、生徒間の言葉の壁や考え方の違い、など、幾つものコンフリクトが存在する。生徒達は、各々の頭の中のイメージを言葉と形にして議論し、それらのコンフリクトを一つ一つ乗り越えていくことで、客観的な視点の存在を体験し、お互いを理解し合い、同時に、自分を理解する。そして、相手を、自分を、もっと理解したいと考える様になる。其処にコミュニケーションの基本が有る様に感じる。

第2には、中学校、高校、大学が、相互に連携しているという点である。同じ学校の中で後輩が先輩の行なうプレゼンテーションを目標にすることは、良く有ることだが、ASEPでは、さらに、生徒が、中学を卒業して高校へ、高校を卒業して大学へ、さらに教員へ、或いは、プレゼンターからスタッフへ、など、立場を変え、自分をレベルアップさせながら、継続して関わることが出来る。より長いスパンでの、後輩から先輩への目標が非常に判り易い形でビジュアル化されている、という機会は、滅多にある事ではない。今回発表されたプレゼンテーションの中で、台湾の高校と日本の大学とがコラボレーションしたものが有ったが、作成過程では、同じ校種のコラボレーションとはまた違った議論が有ったに違いないと想像出来、また、発表されたプレゼンテーションでは、高校生の元気さと大学生のロジカルな面の両方の良さが出ていて、私は非常に興味深く感じた。其処には、単なる大学生と高校生のコラボレーションというだけではなく、大学生自身が高校から継続してASEPを経験しているということも関係しているのかもしれない。

大きな特徴の第3には、自分達のプレゼンテーションが「相手に伝わる」ことを大切に考えている、という点である。プレゼンテーションは、「相手に伝える」ことは注目されているが、「相手が受け止める」こと、「相手に伝わる」ことに関しては、余り注目されていない様に思われる。しかし私は、プレゼンテーションは、相手への一方的な伝達ではなく、

「相手に伝える力」×「相手が受け止める力」=「相手に伝わる量」

という乗算であると考える。ASEPでは、生徒の一人一人が、自分が伝えたいことを、伝える相手がどの様な人達なのかを意識させ、そして同時に、自分達が「相手に伝える」プレゼンターであると同時に、他チームのプレゼンテーションにおいては「相手を受け止める」オーディエンスでもあることを意識させている。そのためには、生徒や学生、教師も含めて、自分達のチームだけではなく、誰もがASEP全体を意識し、全員のお互いの顔が見える様な演出をしなければならないと考える。初期の頃は、全体の交流のための専用のウェブページや掲示板、メーリングリストなどを通して、WYMやASEPの意義、他のコラボレーショングループの存在やその様子などを見せることをしていた。最近では、フェイスブックをはじめとするネットワークツールが多くあらわれ、コラボレーションする学校間のコミュニケーションは非常に便利になった反面、手段が多様化して来ている面もある様に感じられる。私がアーカイブを作成するに当たって、出来る限りインターネットの基本的な機能を使うことに拘っているのも、ここにある。

WYMやASEPが10年以上継続して行われているのは、関わって来られた日本や台湾をはじめとする多くの方々の努力の集大成である。最初は小さな組織から始まったWYMとASEPだが、回を重ねるごとに進化し、今も変化し続けている。時には、学校の事情や運営上の都合などにより、不具合やトラブルが生じる場合も間々ある。しかし、毎年ASEPが近づくと私の心がワクワクするのは、生徒や教員など全ての人達が、ASEPが「順位を付ける」プレゼンテーション大会ではなく、「自分達が全員で継続して創り上げる」プレゼンテーション大会であることを意識しているからに違いない。