ASEPにみる教員の力量向上と資質
–主体性を持たせるための指導とは-
福井県立若狭高等学校 教諭 三仙 真也
はじめに
福井県立若狭高等学校。都会とはいえない小浜市にあるが、生徒たちは純朴で、伸び伸びと毎日学校に通ってきている印象がある。アメリカの大統領フィーバーに合わせる形で、ここ小浜市にも少し脚光が当たっているような気配である。
本校とASEP(Asian Student Exchange Program)との歴史はまだ浅く、生徒を引率しての参加は今回が初めてであった。かくいう私も参加は初めてで、ASEPがどんなものかは人からは聞いていても、おぼろげなイメージでしかない。しかしこれは翻せば、このASEPというプログラムをsubjectiveとobjective、相反する2つの視点から見つめることが出来ることを意味する。
これをふまえ、今回私が参加させていただくにあたり考えていたことが3つある。
@ ASEPの位置づけ
生徒にとって、教員にとって、日本にとって、ASEPがどんな位置づけかを客観的な視点から理解する。
A “bridge”になること
台湾と日本、国と国の代表として顔を合わせることにある。そこにはverbal, nonverbal問わず、意思疎通や交渉が必要となる。我々が両国の交流の架け橋となる。
B 生徒一人一人の意識づけ
初めて海外でプレゼンを行う。そこには旅行気分やよそもの意識がどうしてもつきまとう。あくまで「日本の代表」であり、生徒一人一人が自分を通して日本という国を見られる、自分の一挙手一投足が見る者の日本のイメージを形成する、そのことを忘れないようにさせる。
以上のことを念頭に置き、今回のASEPに参加した。とくにA・Bにおいては両国のコラボレーションを通して得られる貴重なものである。いかにして、これらを生徒たちが得、実践できる場を作り上げるか。そこに我々教員の責任がある。
この考えに基づき、台湾での滞在やプレゼン作成における反省点を振り返りたい。その反省を通じて見えてくる、教員として求められる資質について論じたい。
教員が先見性を持つ
プレゼンテーションにおいて重要なのは発言者がトピックを正しく認識できていること、そして自分の言葉で伝えられることだと考える。プレゼン作成の過程においては教員側が手探りであり、そのため教員も生徒も時間的な束縛があり事前の議論が浅く、考えが浅いまま台湾入りしてしまった。
生徒がいきいきと活動をする上では、生徒同士のインタラクションが不可欠である。今回のプレゼンテーション作成の過程において当初問題だったのは「現地においても生徒が高校ごとに分かれて作業・練習をしている」ことであった。ある程度プレゼンテーションのスクリプトやpptファイルにめどが立った後は、主体的に生徒同士が指摘し合い、国の垣根を越えた協同作業に持ち込むことが出来た。
ASEPという貴重な場において大切なのは相手校とどうコラボレートするかである。こちらが見通しを持っておらず、現地に着いてからの貴重な練習時間を生徒同士の関わりに十分に使えることが出来なかった。事前準備で解消できた問題をその貴重な時間内に処理しようとしていた。
この経験からいえることは、教員が先を見越し、生徒が自分の力を発揮し発表する場を整えることが必要であるということだ。見通しを持ち、事前に話し合い、生徒の活躍できる場を最大限確保することが必要である。
これは内容に関しても同じ事がいえる。テーマ決定後には大きな視野でもってそれを教員同士で議論し、方向性を見いだしていくことが円滑なプレゼンテーション作成への近道であり、かつ本番での成功に繋がるであろう。
教員が“自主性”と“主体性”を正しく認識する
生徒はこちらが思う何倍ものエネルギーを持っている。今回のASEPにおいて本校は各学年からメンバーを選抜し、本当に意欲のある3名が揃った。こちら側がたとえ何もしないでも、自主的に取り組むこともでき、完成したときの達成感も感じることが出来るだろう。
しかし、それでは不十分である。生徒が力を発揮できる場においては得てして、自主的に行動するあまりに議論や団体としての方向性がずれてしまうことがある。先に述べた両国の代表としての意識や、架け橋としての使命感をいくら出発前に説明したところで、それらが薄れ、生徒の成長もプレゼンテーションの内容も乏しいものとなってしまうだろう。
今回の滞在においては生徒の自主性に依存する部分があったように思う。生徒同士が自分たちのみでやることがベストであると勘違いして、方向性の曖昧なプレゼンテーションが当初できあがってしまっていた。そこで教員のアシストが入った結果、語彙面においても内容面においても、プレゼンテーションが生徒の口を借りて教員の考えを発表する場になってしまった部分があった。それがプレゼンテーションにおいて「自分の言葉で発表していない」ことになり、聞き手に訴えかけるものにならないことに繋がってしまった。
達成感を得たこと、成功体験は生徒のモチベーションにも繋がる。今回ASEP終了後に本校の一年生の生徒が漏らした「もっと英語が上手になりたい」という言葉はまさに、その象徴であるといえる。あくなき向上心を得、目的意識のはっきりした生徒は、意欲的に毎日を過ごすことができる。
生徒が自主性を持つことは当然大切である。我々教員が意図しないようなすばらしい発想が彼らから得られることもある。しかしながらそれはこちらの見通しのなかであるべきではないか。レールを敷いてその上を走らせるのではない。歩いていった先に何が見え、そこにたどり着くために必要な手段をガイドする。生徒が「自分たちで作り上げている」という主体性をこちらが補助し、そこで自主性を発揮し、最終的な達成感に結びつけることが理想的なプレゼンテーション作成であり、この作業に求められる教員の資質ではないか。
おわりに
今回のASEP参加は参加した生徒にとってはもちろん、私にとっても本当に得るものは大きく、今後の若狭高校の「国際交流」教育にどう生かしていくかが課題となってくる。ある程度見通しを得、改善点も明確になった今、今後は以下の3点を特に考えていきたい。
@ 他の生徒にどう還元するか(すでに学校HPに掲載し、周知している(注))
A 日々の授業にどう生かすか(TT等でプレゼンテーションは行っている。今回の経験や学んだことを様々なトピック、生徒に応用する)
B 次回のWYM、ASEPにどうつなげていくか(より自分の言葉で。今回の反省や失敗をふまえて)
ASEP終了後の生徒の写真である。彼らの笑顔は最高のものか。達成感はどの程度のものか。さらに上を目指して、邁進したい。
(注) 本校HP(http://www.wakasa-h.ed.jp/)にて、本稿とは違った視点からのレポートを掲載した。