ASEP参加を続けて
立命館中学校・高等学校 上杉兼司
 

 若手教員やこれから参加する先生方へのメッセージとなるようにとの依頼を受けたので、僭越ながら、今までの振り返りとは違い、生徒募集の部分を中心にアドバイスとして書かせて頂くことにした。当然目的は一つでも教育にはさまざまな手法があるので、ここに書くものは一つのスタイルに過ぎない。紙面の都合で誤解を与える部分があるかもしれないが、それらについても、みなさんのご意見を頂ければ幸いである。また、ASEPに参加して6年目となるが、前任校で3回、現任校で3回と、今年で異なる学校での経験回数が同じとなった。多少はこれらの経験をまじえるがASEPそのものの意義や生徒の変容などは昨年までのまとめや他の先生方の文章で紹介されているので、それらを参照して頂きたい。

 

○初回の参加募集

 いずれの学校においても、他の教員や執行部(管理職)の理解が得られるか、参加を希望する生徒が現れるかなどが心配であった。いくら良い取り組みに対してであっても、教員側としては通常の業務に付加される負担(人的・金銭的両面において)を伴い、保護者側としては金銭的な負担、生徒自身もさまざまな活動との両立が必要であり、それらが障害となる。

職場内での協力者を得るためには、信頼関係の構築やそれまでに行ってきた実践結果が必要である。実践結果とは、どのような視点で生徒の能力を引き出せたか、生徒や保護者からの信頼を得られているか、職場内での通常の業務がしっかりできているか等が含まれる。いくら突出したことをしていたとしても、他の部分にほころびがあれば理解を得られない。また、取り組み自体の優位性を相手に伝えられるかも大事なポイントである。生徒に対する募集でも同様で、生徒から信頼されていなければ、新しい取り組みに生徒を集めることは難しいであろう。どちらの学校でも、初回は自分が担任をしているクラスの生徒が参加の中心となった。前任校では、私立の進学校であり、このような取り組みは受験の邪魔になるという考えを持つ教員や親も存在した。しかし、この取り組みを通して培った力が生徒の将来のためにいかに有益であるかを理解してもらえれば賛同を得られる。「生きる力を養成する」といっても、それを具体的に説明することは難しい。「なぜ台湾で英語のプレゼンテーションなのかというと、・・・」、「海外に生涯の友を見つけられるってすばらしい。なぜなら・・・」、「参加したら成績も絶対伸びる。なぜならば・・・」など、様々な視点から語ることができなければいけない。そして、本当にそうなるように最大限の努力を惜しまないことが大切である。これから参加する教員は、生徒募集から生徒指導までのすべての面で、経験してきた先生方と語ることが大切であり、ASEPにおけるBarYokoはその場の提供という重要な役割を演じている。

 生徒にとって有益な結果となるためには、生徒をその気にさせることも重要である。そのためには、得られた経験がどのように役に立つのかを伝え、生徒に信じ込ませることである。これが、教師のカリスマ性であろう。あの先生がいうからには間違いないと思わせるところまで来れば、生徒の先輩から後輩へ語りつながれていくので、その後が楽になってくる。生徒の自主性という金言の前に屈して、遠慮して(手をこまねいて)いてはせっかくのチャンスを前に尻込みしている生徒を引き上げられない。自信を持って、「君は参加すべきだ」といえることも教員の重要な資質であると思う。

この生徒が動けば・・・、という生徒も必ずいるはずだ。そういった生徒を参加させられるかどうかも、今後につながる大きなポイントとなる。なぜならば、教師が直接救える生徒はごく一握りであるからだ。ある生徒を変えることでドミノ倒しのようにクラスや学校が変化していくものである。そのような生徒に指導のターゲットを絞りながら、手助けを必要とする生徒にも力を配分するようにしなければ、教育効果が薄いのである。

影響力を持った生徒が参加したならば(影響力のない生徒であったとしても)、その体験を他の生徒が共有できるようにしなければならない。体験を自分だけにしまい込んでしまう生徒は将来的に伸び悩む。伸びる生徒は、伝えることで考えをまとめ、自分のものにしていく。さらに、まわりに影響も与えていく。クラスの中での体験の発表、全校集会での発表など、クラス通信・学年通信・学校全体で発行している新聞などにも文章をのせる。これで、波長が合う生徒が2年目に必ず現れてくる。1年目との大きな違いは、生徒の視点が募集に加わってくるところである。中学生だけの参加者だった1年目。中高にわたる参加者がでた2年目。男子の参加もあり、2チームを作るまでになった3年目。確実に、興味を持つ生徒が増えてきた。ここまで来ると、他の教員も認識をするようになる。この流れは、中学生の参加を除けば、前任校でもまったく同じであった。

 

○指導者となるリピーターを作る

前任校との違いは、立命の方がはるかに参加者の年齢の幅が広いことだ。中1から高3までの混合チームである。すべて同じ指導でよいはずがない。中1には中1なりの参加のしかたがある。そして、上級生は後輩の指導をすることも重要な役割であることを認識させなければいけない。上級生がリーダーとなれれば、少なくともその半分以上は生徒の経験からくる生徒の言葉で上級生から下級生に伝わる。そして、教師が伝えたこと以外にも、自分で動くことができるようになる。ここまできて、自分で動く「自律」が成立するようになる。上級生の「かっこいい」動きに、後輩は触発される。

 このような指導者となるリピーターを作るためには、楽しさと悔しさの両方を与えることが重要に思う。生徒に期待をさせるとともに、ハードルを示すこと、すなわち、参加する意義、目標、ASEPや現地の情報を理解させることである。そして、目標に達するまでのプロセスも教えなければいけない。

 教師が伝えたことや指導したことを実践して結果が出たとき、生徒は教師を信頼する。教師が伝えておいた失敗をしたときにも生徒は教師を信頼する。伝えることが足りなければ、失敗を教師の指導のせいにする。近年、人の話を聞くことできない生徒が増えている。家庭の教育の問題もあろうが、学校現場でそれがいかに大事かを辛抱強く教え、聞かなかったことでの失敗をさせておかなければ、自分の責任とは思わない。できればクラスメイトから「おまえが聞いてないからだ。」といわせるような指導が必要なのである。教師からの働きかけがなければ、経験のない生徒は何も得られない。見本や理想の形がなければ反省もできない。人間は未来の予測であっても「経験の範囲で判断」をする。だから、見本をまねることから始めることで、生徒は成長していくのである。また、生徒を信頼し自信を持たせることで、自ら問題解決をする力が出てくる。最高学年の責任と自信は、過去の悔しさをバネにし、友人や教師、家庭の後ろ盾の安心の上に形成されると思う。

 どこまで伝えるか、指導するかは、中学生、高校生、大学生によって当然違う。何度も繰り返すが、中学生をむやみに大人扱いしても何もできない。ただし、伝えたり教えたりするけれども、最終的に自分たちでやり遂げたと思わせる必要があるのだ。また、成功したときほど次に活かす反省をすることは難しい。だからこそ、失敗したときほどいいところを見つけ、成功したときほど厳しく評価を伝えることも次につなげていく上で大切なことと思う。

  

○まとめ

 以下に、主なポイントを項目にたててみた。

@  場の創設・提供

A  教員間の経験共有

B  生徒の参加募集

C  生徒の自律を促す的確な年齢に応じた指導(放置は×)

D  振り返り(生徒も教員も)

E  他生徒や他教員との経験共有

今回ふれたのは、A以降の部分である。ASEPWYM自体はすでに場が存在するが、フィートバックにより新しい場にしていくことはいうまでもない。AはBarYokoだけでなく、様々な機会が設けられているので積極的に利用してほしい。過去のビデオ、写真などもCにどんどんと使えるように蓄積されているASEPWYMの経験を教育実践に活かせるように、みんなで経験を共有していこう。