プレゼンテーション行動分析の新しい視点
―AIDMA (アイドマ)の法則を適用して―
関西大学 吉田 信介
はじめに
プレゼンテーションは、その活動を通じて論理的な思考力を育み、自己を表現する能力や創造力を涵養 (IT戦略本部, 2004) する一種の自己宣伝活動であると言えよう。これは消費者が「ある商品について、それを認知し、購買するに至るまで」の行動プロセス、および、販売員が商品販売に成功するまでのセールスプロモーションと類似しており、これらの行動を分析するプロセスモデルとして、AIDMA(アイドマ)の法則(Roland Hall, 1985)、AIDAの法則(Strong, 1925)、AISAS(電通、2007)等がある。この内、AIDMA(アイドマ)の法則では、消費者がある商品を知って購入に至るまでの各行動を頭文字で表し、「Attention」(注意)、「Interest」(関心)、「Desire」(欲求)、「Memory」(記憶)、「Action」(行動)の5段階があるとされる。このうち、Attentionを「認知段階」、Interest、Desire、Memoryを「感情段階」、Actionを「行動段階」としてそれぞれ区別している。
例えば、ある消費者がTVでsneakerのCMを見て興味を持ち、購入するまでのプロセスを分析すると、最初、メーカーのCMが放映され消費者がそれに「注意」を払う。次に消費者が特定のsneakerに「関心」を持ち、購入意欲が刺激され、購入「欲求」が生まれる。そしてその商品を「記憶」し、最終的に店舗での購入「行動」に至る:
1) Attention(注意)=テレビ広告等で注意を引かれる。
2) Interest(関心)=商品に対する興味を持つ。
3) Desire(欲望)=商品を欲しいと思うようになる。
4) Memory(記憶)=商品やブランドを覚える。
5) Action(行動)=購買行動を起こす。
今回、ASEP2007での各グループのプレゼンテーションについて、それらを分析して新たな知見を得るため、この理論の各段階に当てはめると次のようになる:
1) Attention(注意)=注目を浴びる手法に注意を引きつけられる。
2) Interest(関心)=プレゼンテーション内容に対する興味を持つ。
3) Desire(欲望)=プレゼンテーション内容を知りたいと思い積極的に関与する。
4) Memory(記憶)=具体的な言葉、イメージ、数字を覚える。
5) Action(行動)=実際の行動を起こす。
ASEPプレゼンテーション行動分析
この分類に従って各プレゼンテーションでの様々な活動を分類すると次のようになる:
1) Attention(注意)
○魅力的なタイトル、映像、写真、音声、文字、動き等で観客の注意を引く。
2) Interest(関心)
○“Safe eating save our Earth”, “M-shaped society”, “Gap between rich & poor”, “Green or not green, it's a question”等、国境を越えて興味を引く題材を扱う。
○歌、劇、ロールプレイング、ユーモア、衣装、仮装、標識等で内容への関心を引く。
○ICT(PPTやFlash)を駆使して魅力的なプレゼンテーションを行う。
3) Desire(欲望)”
○フロアとのインタラクション(クイズ、対話、挙手)でフロアの参加を促進する。
4) Memory(記憶)
○印象的な写真(戦争、飢餓、貧困、子供)、数字(風呂19回=ハンバーガー1個;CO2排出量:ハイブリッドカー75/km vs.通常車136/km等)、標語(“Go
buy organic food! ”; “Turn off electronic devices”;「もったいない」)、イラスト(リサイクル比をゴミ箱の内容物で図示したポスター等)、各種グラフ等で記憶に留める。
5) Action(行動)
○行動の提案(Volunteerサイト立上と参加の約束;Organic food購入の消費活動、不要電灯の消灯によるエネルギー節約運動等)
まとめと今後の課題
このように各プレゼンターは、ASEP2007への参加を通じて無意識の内にAIDMA (アイドマ)の法則に従った一種の自己宣伝活動を効果的に実践すると同時に、ICTを駆使して自己を表現する能力や創造力を身に付けることができたと言えよう。さらに、発表に至るまでの打合せ段階において、今回の目標の1つであるICPs (International collaborative project-based learning)により、参加者同士がSkype, blog, e-mail, ML等による協働学習で培ったコラボレーション能力を世界の舞台で実践することで、大会目標の“move the world”が可能となることが確信された。今後の課題として、発表会場での事前リハーサルの実施、原則として台詞の丸暗記、文字・映像・音声の著作権への配慮、ディベート大会等を含む大学生の発表のあり方についての検討が行われる必要があろう。
参考文献
電通 (2007)『買いたい空気のつくり方』ダイヤモンド社
Hall, S. Roland (1985) “Retail Advertising and Selling,” Taylor & Francis, London
IT戦略本部 (2004)「人材の育成並びに教育及び学習の振興」『e-Japan重点計画』
Strong, E.K. (1925). "Theories of Selling". Journal of Applied Psychology 9: 75-86.