英語の活用について
福井県立福井商業高等学校 今川 佳紀
日本の英語教育の概要
日本の教育では、 ESL ( English as Second Language :第 2 言語としての英語)としてではなく、 EFL ( English as Foreign Language :外国語としての英語)として英語を教える傾向が強い。特に高校では、生活言語( BICS : Basic Interpersonal Communicative Skills )よりも学習言語( CALP : Cognitive/Academic Language Proficiency )として英語を教える傾向が強い。中学校ではコミュニカティヴなアプローチで英語を学習する場面が多いが、高校では大学受験対応という観点もあり、 Grammar-oriented (文法中心)、 Translate ion-oriented (訳読中心)なアプローチも少なくない。しかし、学習指導要領の改訂により、多くの英語教師が様々なコミュニケーション活動( CA : Communicative Activity )を取り入れ、生徒を中心とした授業形態( Student-centered class )を模索しながら実践しているのも事実である。
日本の英語教育で使用される教科書では、アメリカ英語やイギリス英語が取り上げられることが多く、文法や発音を含め、これらの英語を基準とした指導が行われる。国際交流となると英語を母国語とする国もしくは人々との交流が中心であり、外国語として英語を話す生徒(日本の生徒)にとって、母国語として英語を話す生徒(アメリカの生徒やイギリスの生徒)に対する心理的なハードルがある。すなわち、「彼らは英語が話せる」が、「自分は英語で話せない」という引け目のような感覚が、彼らが本来持っているコミュニケーションを阻害する1つの要因となることもある。日本という地理的条件から仕方がないが、学校以外の場での英語の使用場面は少なく、場慣れしていないということも要因の1つとして挙げられる。
ASEP における英語使用場面について
ASEP ではアジアの国々の生徒が集まり、 2 カ国以上の生徒で 1 グループを構成し、1つの協働プレゼンテーションを発表する。相互の理解を深めながら1つの結論を導き出すには、英語が意思疎通の手段となる。Eメールをはじめ、Skypeやメッセンジャー、TV会議等を使いながら、協働プレゼンテーションの準備を行う。台湾に行ってからも、各学校で協働プレゼンテーション準備は行われる。生徒や学生は、日本の英語教育で学び身につけてきた Reading 、 Writing 、 Speaking 、 Reading の4領域の技能を Authentic な場面で発揮できる機会となる。
また、お互いに母国語として英語を話す生徒同士ではないので、引け目を感じることなく英語での意思疎通も可能であり、この点において日本の生徒にとっても英語使用に対する心理的なハードルは低くなるのではないかと思われる。英語を外国語として学んでいる他国の生徒とのコミュニケーションを通じ、英語学習に対する内発的動機付けが活性化される場面でもある。ホームスティや学校生活での生活言語、プレゼンテーション及びその準備における学習言語の使用場面も多い。
学校の英語の授業だけでは、教科書や参考書、問題集などの閉じられた狭い「内の世界」へ収束してしまいがちであるが、 ASEP のように開かれた広い「外の世界」へと生徒を誘うことが、これからの日本の英語教育には必要であると思われる。この意味で、 ASEP は日本の生徒・教師にとって、有益である。
国際交流における英語活用の考え方
英語を指導する側が、以下に挙げる視点を持ちながら生徒を指導することは有効であると考える。
1. Lingua Franca
日本人は、「英語は国際語( International language )である」と言うことが多いが、英字新聞などを読んでいると、国際語を” International language ”と表記せず” Lingua Franca ”と表記することがある。” Lingua Franca ”とはそもそも地中海東部沿岸で通商の時に用いられたイタリア語、フランス語、スペイン語、アラビア語などの混成語を意味していたものらしいが、今では「共通語」という意味合いで使われるようになってきている。英語の文法や構文でさえ、自国の母国語の思考パターンの影響を受けることさえある。音声面だけでなく、英語そのものが、話し手の持つ国の文化やその国の言語思考パターン等によって多様化してくる。このようにグローバル化が進み英語の多様化が進んでくると、意思疎通のための英語は「大きな枠」での英語となる。 ASEP などアジアの国における意思疎通の英語は、 Lingua Franca としての性格が強いのではないかと思われる。
2. High acceptability 「受容性・容認可能性」
自分の使用する英語がどれだけ受け入れられやすいかということ。文化的な背景もここに含まれる。例えば、アメリカでよく使われる表現も、オーストラリアでは受け入れられないことがある。国々によって思考パターンや行動様式が異なるので、当然、違う文化を持つ人には理解されないということが起こりうる。日本語をそのまま直訳したのに通じないというのは、その日本語自体が、日本特有の文化的な背景や思考を反映しているものなので、それをそのまま英語にしても異なる文化や思考形態を持つ国の人には受容してもらえないということになる。多様化した英語がある中で、どの程度” universality (普遍性)”が必要かは議論の余地があるところではある。
3. Appropriateness 「適切性」
英語は日本語以上に抽象名詞が多いので日本語に置き換えるときには苦労することがある。「適切性」とは、ある表現がその置かれた状況で適切であるかどうかということ。「場面対応力」もこのカテゴリーに入るのではないかと思われる。 ASEP というプレゼンテーションの場で、誰が聞き手なのか、聞き手の英語のスキルはどれくらいなのか等を考えることは、この Appropriateness の視点からも重要であると考える。
4. Minimum general intelligibility 「最低限の一般的な了解度・理解度・明瞭さ」
この観点は文法だけでなく、音声面なども含む。英語を外国語として使用する以上、完璧ということはそう多くない。ここで留意すべき点は、” Minimum ”=「最低限の」ということである。日本の英語教育を受ける生徒は、どうしてもメッセージが伝わるかどうか以上に、英語の文法的間違いを気にしすぎてしまうことがある。きちんとした英語を学んで行く上では大切なことであるが、国際交流においては、英語を使用する場面は絶えず流れていくので、立ち止まることはできない。生徒が Minimum general intelligibility という概念を持つことも時には必要であると考える。ただし、いわゆる Global error (メッセージを伝えるには致命的な間違い)が多ければ、 General intelligibility は低くなるので、 Local error (ちょっとした間違いでメッセージを伝えるには支障がない間違い)との違いを意識させる必要はある。
このように ASEP という国際交流は多くの示唆に富み、国際交流における英語の活用について考えることは、英語教師にとって国内での教材研究だけでは学べないことを発見する場であると言うことができる。