無限の学びの場、ASEP

関西大学 吉田信介


はじめに 
これまで数回にわたりASEPにオブザーバとして同行させていただいたが、今回初めて当事者として参加した。そこで初めて異なる言語的・文化的背景を持つグループが共同でプレゼンを完成させるまでのプロセスをつぶさに見ることができた。特に、本学の学生が感想で述べているように、既に互いに主張したいことがほぼ固まっている段階で、それぞれの主張を取り入れつつ、一つの方向に持っていく作業には困難が伴い、そこから、苦労しながらも多角的に物事を見て、一つの事にとらわれない柔軟性を持てば、聴衆を説得できるメッセージ性のあるプレゼンを完成させることができること、そしてそれがASEPの魅力の大きな部分を占めていると自ら導いていることは、このイベントが実社会での交渉の模擬体験の場として機能していることの何よりの証である。そこで、ASEPで必要な国際コラボ交渉力と、実社会での国際取引交渉との関係について考えてみたい。

ウィン/ウィン>ウィン/ルーズ 
一般に取引の場では、交渉による勝ち負けにこだわり、自分のパイの取り分を大きくしようとするウィン/ルーズ(win-lose)の原理が働くが、ASEPでは互いの主張を認め合い、協力してパイを大きくして双方が満足できる結果、ウィン/ウイン(win-win)交渉を実践することができ、皆が幸せになることができる。

互恵主義>情報のジレンマ 
実際の交渉の場では戦略として、相手からは最大限の情報を得、自分の情報は最小限に抑えたいと望む情報のジレンマ(dilemma of information)が起こりがちであるが、ASEPでは、言語と文化の異なるグループが長年の信頼関係で結ばれているため、自身が正直であれば相手も正直になるといった互恵主義(reciprocity)が自然発生的におきている。

体面維持>面目喪失 
人はいかなる場合でも体面を重んじる(face-saving)が、実際の交渉においては、相手の提案にいきなり「ノー」と言って面目を失わせたり、提案を無理矢理相手に押しつけるため、しばしば交渉が決裂する。一方ASEPでは、一つのプレゼンを共同で作成するという大きな目標があるため、グループは互いに協力して、よりよいものを作るための交渉を行う必要がある。その結果、相手の体面を維持しつつ、自己主張を行いながら交渉を進めていく能力を習得できる。

国際交渉の基本ルール10 
国際交渉においては、利益がぶつかり合いながらも取引を成立させる必要があることから、次の基本的なルールがある: @周到な準備、A譲歩の最低ラインの設定、B忍耐力、C直感力、D相手への敬意、E柔軟な態度、F円滑な人間関係、G相手のニーズ分析、Hプラス面の強調、I冷静さ(「実践グローバル交渉―国際取引交渉における障壁とその対策」サラキューズ, 1996より)。ASEPが交渉を行いながら最終的には共同プレゼンを完成させる必要があることから、これらのルールは大いに参考となる。

おわりに 
ASEPに参加することで、日・台双方の学生・生徒は、言語と文化の異なる相手と一つの目標に向かって協力と交渉を行う能力を習得することができ、延いてはそれらが「人間力」となって、グローバル社会での架け橋となって活躍できる人材が一人でも多く輩出されることを望んで止まない。