国際交流を支えるICTの環境設定と情報のシェア

石川県立小松商業高等学校 林 道雄

Suggestions

1.ASEPのコミュニケーションには4つの形態がある。

2.ASEPでのICTの環境設定と情報のシェアを考える時、4つの形態に注目してネットワークを活用する必要がある。

 

近年、様々なプレゼンテーション大会が各地で盛んに行われているが、実際の会場では、発表する為のプレゼン、審査される為のプレゼンに陥ってしまう例が多く見られる。その様な中で、ASEPICTをコンセプトにし、参加者全体のコミュニケーションを重視している数少ないプロジェクトである。そして、その様なASEPのコミュニケーションを、距離を横軸に、時間を縦軸に支えているのが、ネットワークである。

私は、ASEPWYMでのコミュニケーションには四つの形態があると捉えている。第一の形態は、一つの学校内の参加者による共通理解のコミュニケーション、第二の形態は、異なる国、異なる学校の参加者によるプレゼンターとしての議論と調整のコミュニケーション、第三の形態は、プレゼンターであり、他のプレゼンのオーディエンスであり、或いはスタッフである、ASEPという1つのミーティングの出席者としてのコミュニケーション、さらに第四の形態は、体験を次へと伝えていくコミュニケーションである。第一形態から第二形態へ移行することで、参加者はさらに自分達をより客観的に捉えながら、オーディエンスに如何に判り易く伝えるかを意識することが必要となり、第二形態から第三形態へ移行することで、参加者は自分達のプレゼンテーションのオーディエンスとなるアジア各国の参加者全員をより実感として意識し、また、自分達も彼らのプレゼンのオーディエンスとなる、その一体感を味わうことが出来る。冒頭に述べた様に一般的にプレゼン大会では、自分達の発表だけが重要で他人の発表は興味が無い、或いは、どちらが上手でどちらが下手か、という様に、プレゼンにとって重要なファクタの筈のコミュニケーションが軽視されがちである。ASEPもまた幾つものICPの集合体であるためにどうしてもICP内での交流に時間が割かれ、全体や他のICPへの意識が薄れ易い面があるが、ネットワークによりこれを克服出来るといえる。第四の形態では、大会終了後、参加者達が体験を文章、画像、動画などでリフレクションし、次回の自分自身、或いは次回の参加者へと引き継ぐことで、継続する国際交流が成立している。

これらのコミュニケーションを支えるツールの一つであるネットワークも、事前交流、現地交流、事後交流、において、それぞれの形態にあわせた活用法が必要になる。例えば、生徒用のメーリングリストでは、第一形態としての、一つの学校内での連絡や調整の為のもの、第二形態としての、異なる国、異なる学校の参加者によるプレゼンターとしての議論と調整の為のもの、第三形態としての、ASEP参加者全体の交流の為のもの、という三種類のメーリングリストが運用されたが、第一形態のものは主に連絡に使われる為に携帯電話のアドレスを登録したり、第三形態のものは中学生から大学生まで不特定多数が対象になることへ配慮が必要になったり、第一と第二形態の生徒用メーリングリストのログは、ネタバレ防止の為に大会終了までは原則として非公開にしたり、という様な性格付けをする必要がある。特に第三形態のメーリングリストは話題提供などで運用に難しい面があるが、自己紹介やアトラクションの打ち合わせ、大会後のリフレクション、などの他に、事前にメーリングリストで提示した話題を元にしてプレゼンテーションを行う、ということも、可能ではないかと考えている。第四の形態としては、メールはログとしてHTML化することで、後から何時でも見ることが出来る。

以上、メーリングリストでの例を挙げたが、これは、掲示板、チャット、スカイプ、ブログなどの他のネットワークツールでも、同様の事が言える。

前にも述べた様にASEPは幾つものICPの集合体であり、どうしても全体としての動きが見え難い面がある。これを回避する為に、主に情報のシェアを目的としてスタッフのサポートページをPukiwiki Plus 国際化版を中心に作成している。Wikiでは誰でも、各ICPの自己紹介や経過報告、会議やメーリングリストでの決定事項をその都度書き込み合うことで、情報が整理され、情報を全体でシェアすることが出来る。国際化版を使用することで、メニューやメッセージが英語、中国語、韓国語に対応出来るためにより使い易く、さらに、1つのWikiの中で国ごとの情報の切り分けなども可能となる。ファイルサーバでは、大きなファイルの提出や受け渡しという基本機能と同時に、お互いのコンテンツのシェアという性格も持たせている。

ASEPは今回で8回目を迎える。継続するプロジェクトでは教師も生徒も引き継ぎが起き、或いは新しい参加校が登場したりする。Wikiやファイルサーバ、メーリングリストなどの情報は、そのまま記録として蓄積され、未来へシェアしていくことが出来る。

回を重ねる毎に進化し大きくなっていくASEPだが、単なる学校対学校の国際交流の集合体ではなく、それらが有機的に連携した一つのコミュニティとして機能するために、ネットワークツールを如何にデザインし活用するか、が、私の課題となっている。