国際協働学習を成功させるには

――― 高雄高校とのプレゼンテーションで学んだこと

 

立命館中学校・高等学校 上杉兼司

 

ASEP2007の全体的な特徴

 昨年より、ペアーとなる学校どうしが中心となって交流を進める方法に変更になったが、本年も、その形が踏襲された。これによる利点は、

1)       事務局の負担が大幅に軽減される、

2)       各校が独自に動きやすい、

3)       各校が「お客様」ではなく、主体的に動くという意識を持たせることができる、

4)       ペアーとなる各校間の連携が強化される

などをあげることが出来る。全体的には、これらの利点はよい方向に働いていたと評価できる。一方で、マイナス要因としては、

1)       受け入れ校や担当によって、受け入れ態勢に温度差が生じる、

2)       受け入れ校や担当によって、全体の流れを把握できなくなる、

   (事務局の指示を理解できていない例が散見された)

3)       ASEP参加者全体の交流が希薄となりつつある、

4)       ペアー校が発表された後の変更ができにくく、組み合わせがアンバランスとなった所(3校での協働・ペアー校がない等)が見られた、

5)       各校のプログラムと事務局からのプログラムが交錯しプレゼン作成の協働作業時間の確保やホストファミリーとの交流時間確保が難しくなってきた、

(大学での講義はおもしろい試みであるが、夜のコンサートは不要だった)

等である。次年度以降も、この形が踏襲されるものと思われる。メリットが大きいが、マイナス要因を払拭するためには、

1)      担当をインターンにする場合は、その教育をしっかりするように要望する、

(過去の秀作の発表を視聴させる・プレゼン作成方法及び時間厳守の徹底等)

2)      ASEP事務局の指示に関しては、全体MLに流してもらい、各国の担当が流れを把握できるようにする、

3)      エクスカーションは、以前のように全体で行うことで、交流の場を広げる、

(大学講義と同じ日に置けばよいであろう、高雄港や旗津などへのエクスカーションはとても印象的である)

4)      日本側の出発日程を1日早められるかどうかの検討を行う、

(台湾側の受け入れ態勢は我々の到着の1日前からとられていた)

などを検討、提案していく必要があるものと思われる。

 国際協働学習のプロジェクトを成功させるためには、負担を分散させながらも、統合させる部分を作り上げていくことが、成功の分かれ目になるように思われる。WYMの場合、ホームステイ期間はできるだけ各校や家庭に任せ、合宿とエクスカーションを合同で行うことで、プレゼン作成時間の確保と全体の交流の保障が行われてきた。この取り組みが行われてから2年となるが、この2年間の台湾側からの主力教員の参加が少ないため、台湾側がこれらの効果を認識できていない可能性がある。

ASEP2007の大きな変更点は、賞の設置であろう。この設置によって、生徒達がどのような点が評価をされるのかを学習するきっかけとなった。今後も、評価されることを意識させる取り組みは必要であろう。ただし、プログラムやスケジュールを軽視して、プレゼン作成だけに力を入れすぎることがないように注意しなければいけない。生徒達にも、限られた時間内でできることをやらせ、時間がないことが原因となる失敗を経験させることも大事なことと考える。

 

高雄高校との協働発表

 本年度の立命中高からの参加者は中学2年2名、3年2名、高校1年3名、2年3名の合計10名で、うち、WYM参加者が4名という、バランスのとれたものであった。日本側の教員は、多くが毎年参加をしているが、生徒は年々変わっていくため、いかにして経験を継承していくかが難しいが、経験者と新規参加者がほぼ同数いることは、経験の継承の上では有効であった。ただし、10名の大所帯となると、どうしても関わりが薄くなる生徒がでてきてしまう。1チームとしての限界は10名であろう。

 今回のテーマ決定に関しては、立命側で話し合った結果、高雄高校主導で決定させることになった。「ICT技術を用いて新世界秩序を!」という、きわめて難しいタイトルが提示されたが、生徒達は真剣に取り組み、アンケートも作成し高雄高校側に送付した。しかし、その3日後、高雄高校の担当の先生から、トピックを変えなければいけなくなったとの連絡があった。これは、事務局が出したカテゴリーにあてはまらないために、このタイトルではダメだと事務局からいわれたという。メールで、ICTに関する貧富の差を取り上げればカテゴリーにあてはまるから大丈夫だと伝え、それなら安心との返事をもらっていた。それにもかかわらず、直前のV/Cで、我々のトピックは「地球温暖化」だと伝えてきた。このトピックは、昨年のWYMでやったからいやだと拒否。約3時間に及ぶV/Cによって、ようやく今回のトピックに落ち着かせることができた。

 いずれにせよ、大幅な内容変更で、一時意欲を喪失しかけていた生徒達も、目前に迫る出発日を前に奮起し、なんとかPPTファイルまで作り上げることができた。台湾にいってまた驚き。高雄高校の生徒達は、PPTファイルを作成していなかったのである。いらだつ生徒達。原稿量も半端な量ではない。読み合わせをしてみると20分を超えている。

 原稿とPPTファイルの完成には何とかこぎ着けたが、一度もまともに練習できていない状態で、本番にのぞむことになった。

 生徒の発表の立ち位置もままならない状態であったが、立命側主体に作り込んだ部分では、経験者の生徒の動きでよい状態に・・。ところが、大事なところで高雄高校のスライドのクリッカーが原稿とスライドの対応がわからなくなり、発表とまったくあわなくなってしまった。残念ながら、失敗である。発表後、悔し涙を流す生徒もいた。

 相手を頼らずに接触的にやればよかった。もっと主張すればよかった。当日朝早く集合すべきだった。生徒達は振り返りながらリベンジを誓い合っていた。

 失敗したのにもかかわらず、賞をもらえたのは生徒達にとって救いであった。なぜ賞をもらえたのだろう、という問いかけに。内容がしっかりしていたから、と答えが返ってきた。短い時間でも、作り上げた内容には自信を持っていたことが伺える。自分たちがした提案については、本気で実現したいと考えている。失敗しても、ちゃんとその中身が伝わったんだねと、付け加えた。

 劇風とまでは行かないものの、発表者どうしが会話をするように発表を進め、会場にも問いかけをしていくという手法は、昨年のWYMから4回目の手法で、いままでの経験者がいたからこそ、より効果的にできていたと思う。残念なのは、その一番重要なところで、スライドの効果が得られなかったことである。

 今回のプレゼン作成の過程は、過去のWYM/ASEP10回の経験の中で、一番厳しいものとなった。反省点は、テーマ決定から内容作り込みの段階でのやりとりがほとんどなかった点であろう。相手側の先生が慣れていないという点も大きく、こちら側からの働きかけに対する返答も遅かったために、連絡が途絶えがちになった。この間のやりとりがあれば、テーマが途中で変わるということもさけられたのかもしれない。相手の返答がない場合も、こちらの状況を伝える努力をしておくべきだった。昨年は、トピックを決める段階で双方が提案を作り、期限までに交換した。次回は、相手だけに任せることなく、テーマ決定段階から積極的に関与していこうと思う。また、我々の蓄積してきたことを台湾側と共有し、特に経験の浅い教員に対しては、その内容を事前研研修等でしっかり伝えてもらえるように連携を深めていく必要があろう。