ASEP 2007  New World Order 

アジアの中で

    

 

    日本福祉大学 影戸 誠

       makoto@kageto.jp

 

 

概要

 Asian Students Exchange Program(ASEP)とは2000年より継続実施されている国際交流プロジェクト(International Collaborate Project)である。毎年12月、日本の冬休み機関(124週)に開催され、日本からは日本福祉大学、関西大学、東京国際大学、立命館中学高等学校、福井商業、南山国際高校、大阪扇町総合高校、などが参加、今年で8年目を迎える。ICTを活用した事前交流のあと、現地で英語プレゼンテーション大会、国際交流が開催される。英語活用に積極的に取り組む小学校、中学校、高校、大学レベルそれぞれで必要とされ,学校種を超えて連携して取り組んでいるイベントである。

 

1 ASEPとは

 日本で開催される文部科学イベント・ワールドユースミーティングの姉妹プロジェクトである。インターネット、ICTの特性を生かし、デザインされた国際交流プロジェクトである。Asian Students Exchange Programは台湾高雄市教育局が主催する大会で日本ほか、インドネシア、マレーシア、韓国を含む国際交流イベントで、多彩な交流活動の中心として協働プレゼンテーションが含まれる。

 

2 協働英語プレゼンテーションとは

 台湾ー日本など数カ国で連携してプレゼンテーションを行う。一つのテーマにしたがって、1)アンケートデータを各国で寄せ合う、2)効果的な写真を使う 3) 英語で力強く伝える ことを目標とする。これらの評価基準は構成、ファイル作成、話す力(影戸、2003)の基準より構成されている。

 

3    運営組織

台湾高雄教育局を中心に組織されている。

 チャン・イン・ユン教育長を長として、その下に参加校が配置される。中山大学、イーショウ大学、ウェンザオ大学などのほかに高雄高校、三民高校、高雄女子高校、中学などが参加(台湾側20校程度)

幹事校は三民高校である。実行委員会が掲載されており、各校に交流校が含まれ、プレゼンテーション準備、学校訪問など単位ごとに活動が行われる。最終的に一同に会して協働プレゼンテーションの発表が行われる。

 予算的には高雄市教育局が負担。

 

4 プログラム

24日に開始し、26日のASEP英語プレゼンテーション大会でピークを迎える。それぞれのホスト校での企画は、各校からの報告を参照されたい。

 23日(日)台湾到着 空港での出迎え、 日本側参加者パーティ

 24日(月)学校訪問 ティーチャーフォーラム(各国教員より平和教育に関する実践報告) その後記者会見 、中学校訪問の後ホテルにて歓迎パーティ

 25日(火)学校訪問、プレゼンテーション準備、午後より 義守大学にて文化交流。

       教員、義守大学付属国際小学校訪問(先進的設備、経営)

 

 26() ASEP2007開催 学生企画「さよならパーティー」

 27日(木)台北へ  台北観光

 28日(金) 故宮博物館など 夕方帰国 (各地のプログラムによる)

 

 

5 ASEPのデザイン

教育理論

ASEP実践の理論背景は構成主義である。構成主義とは「参加者自らが意味を構成する」とことに特徴がある。学習理論の一つであるが、何よりも参加者が実践を積み重ねながら体験を通して意味の構築と、他者とのかかわりが質的な成長をもたらすところに特徴がある。

 久保田(2000)はその基準として、

1 主体的なテーマ決定 2 課題を発見 主体的な取り組み 3 本物の問題解決 仲間との話し合い4 多様なアプローチ 体験的に学ぶ 5 揺さぶりを与え、内省を促す6 足場賭け 支援表現7 さまざまな背景を持った人の知見を生かす 8 モニターする力 振り返ることができる力

を指摘している。ASEPではとくに「本物の問題解決の場面」として英語協働プレゼンテーションが位置づけられ、現地訪問でのイベントは「体験的な学び」であり、当然主体的な関わりの中に「教師の支援」があり、最終報告書を通して「振り返り」が行われる。

 またこれまで7年間の積み重ねはプレゼンテーションファイル、ビデオのかたちで残されており、到達イメージの共有がなされている。

 

6 学生、高校生たちの活動

英語プレゼンテーション

 英語プレゼンテーションは参加者が協働で取り組む中心となる活動である。大会のテーマに沿ってその活動が展開される。1)アンケートをデザインしそれぞれの国で実施し比較する。2)スカイプなどで意見交換をおこない、全体の構成を決定する。3)自分たちのパートを作成し、意見を求める 4)大会前に直接会い最終的な調節、リハーサルを行う。

これらの動きを通して当日発表するプレゼンテーションを作り上げる。

 これらの活動によって、ICT活用、英語活用、また英語レベル、異文化の違いから引き起こされる「成長のためのコンフリクト」を乗り越えて、最終的にそれらを達成する。

 主体的な取り組み、課題の設定、また教師からの意見を取り入れながら準備を重ねる。

特には教師の側からにヒントや助言を得ながら推進していく。これらのscaffolding(支援)を得ながらプレゼンテーション作品という具体物が出来上がっていく。

 

現地学生高校生の活動

 日本など海外からの参加者はホームステイプログラムに参加する。台湾側から送られてくる英文のアプリケーションを中心に現地ではコーディネートが行われる。食事制限、性別などによってアレンジされる。この窓口に学生たちが立つ。日本側から要望をいれ、学生が中心となってアレンジしてくれる。

歓迎プログラム

 現地の学校訪問のプログラムは各校で工夫される。大学を例にとると、キャンパスツアーのほか、交流会が企画されている。私は2大学(ウェンザオ、イーショウ)の2校を訪問したが、お茶の楽しみ方講座や、日本語専攻科の説明、国際交流担当者との研究協議など有意義な時間をすごすことができた。

 プログラムは学校の教師は中心となるものと、学生、高校生が主体的に取り組むものと2種類が準備されている。これらの活動は日本側の各校の先生方から報告がなされると思う。

 三民高校では、大きなさよならパーティが実施されたが、3時間にわたり、異文化交流、伝統芸能、各国からの出し物など、多彩な催し物が行われたが、これら英語での司会、運営は高校生たちが主体的に担ったものである。

 構成主義の大きな柱として、「振り返り」があるがあれほどのイベント企画、成功、充実感への振り返りは大きな自身を担当した高校生、学生にもたらすものと思われる。

 

参加学生の声

 1228日最終日、台湾桃園国際空港にてインタビュー

A君「夕方親戚が集まってくれて食事会を開いてくれた。自分の英語力のなさを感じたが、70才くらいのおじいさんが日本語で助けてくれて、楽しいときがもてた。

 風呂も一番に入れてくれ、食事もなるべく台湾の文化を伝えるよう工夫してくれた。感激した。」

K君「大学では日本語の授業に参加させてもらった。2年生というがその力は予想以上のものだった。真剣な学びをみて自分を振り返り恥ずかしかった。」

G君「プレゼンテーション作成の時など、自分の考えを伝えることができず、発信力の無さを感じた。」

W君「夜遅くに帰っても暖かく迎えてくれた。『日本人は遠慮深い』からとおじいさんが何度も食事をすすめてくれた。うれしかったが「おなかが苦しく」もあった。何回も英語をやろうとしてきたが、具体的にNHKなどの通信教育をつかって力を磨いていきたい。」

Hさん「プレゼンテーションではこちらはスクリプトを用意して発表しようとしたが、あいてはそんなものは無く、臨機応変に発表しようとしていた。私たちの理解を助けるために台湾側もスクリプトを準備してくれた。手間がかかるのに優しいと思った。ホームステイには感激した。こちらの興味関心を引き出し、会話を弾ませ、文化的な理解が進むよう食事など工夫をしてくれた。うれしかった。」

 

7 結果と考察

 学生たちの声にもあるように、ホームステイでは満足のいく交流ができたようだ。昨年まではドミトリーであったりして、狭さ、不便さを感じたが、今年は一般家庭へのホームステイを依頼し、実現された。

 大学生がともに英語プレゼンテーションに取り組むオーセンティックな場面の設定に寄って、共に作り上げる困難さや、やり終えたときの達成感を味わうことができたようだ。

 イベントの中にこのような場面を設定することは意義あることであるが、その場面を活かす英語力の無さか日本側にあった。

 出発前に、「説得の為の英語コミニケーション法」など日本の英語教育では扱わない練習を設定することによって更にこの時間が生きていくと思われる。

 

 

8 課題と展望

 今年で8年目を迎えるイベントである。これまでの経験が積み重ねられ暗黙知として参加者の中に、運営やプレゼンテーションのノウハウが蓄積されてきている。

 これらを構成主義などの理論によって明示化しWYMとともに、その教育的意義をより明らかにすると共に、アジア域内のInternational Collaborative ProjectICP)としてモデルを提示して行く必要がある。

 各校での連携においてはそれぞれが工夫されているようであるが、これらの共有も必要になってくる。

 地球温暖化など連携の下取り組まねばならない課題があるが、国際連携が日常的な教育場面でも実践できるまでに、ヒューマンネットワークが築けている。

 「教員が関わる」ことに優位性を活かし、授業の中での取り組みをデザインし、実践していきたい。

 

 

 

 

参考文献

影戸 誠 (2003)実践プレゼンテーション」日本文教出版,東京

Gene Zelazny(2000)Say it with presentationsMcGraw-Hill

久保田賢一(2000)「構成主義パラダイムと学習環境デザイン」関西大学出版部

文部科学省(2002)「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」

Makoto Kageto(2007)An Instructional Design for International Collaborative learning Focusing on Communication (ED497429) http://www.eric.ed.gov/

 

 

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