5.プレゼンテーションと発信力   吉田信介

 

●はじめに

今年でASEP in Taiwanへの参加は2回目である。今回のプレゼンテーションは、ICP(国際共同プロジェクト)の概念を導入して、それぞれ2〜3ヶ国の構成メンバーからなる国際チーム(内、3大学、6高等学校、5中学校、2小学校の計16チーム)により、各チームが設定したテーマについて行われた。そこでは、昨年に比べて、より多くの精緻で、内容が濃く、ダイナミックなプレゼンテーションが行われ、ASEPが年々進化していることを改めて感じた。

 

●参加者の学び

各参加者は、事前打合せにおいては、英語力(Reading, Writing)およびIT活用力(Internet, e-mail, chat room, BBS,画像)をもとに、国境を越えたチームメイトとの交流により、コミュニケーション力、説得力、交渉力を習得することができ、本番においては、その成果としてのメッセージを聴衆へ効果的に発信する方法を学ぶことができたといえよう。さらに、そのことを通じて、アジア5カ国によるHuman Networkが形成されて行く過程が体感できたものと確信する。

 

●新システムの導入

新たに導入された無線アナライザーシステムにより、各プレゼンテーションが終了するごとに、参加教員によるリアルタイムでの評価と即時フィードバックが行われた。評価基準は、1)内容、2)スキル、3)チームワーク、4)メディア活用からなる具体的評価項目と、発表全体を評価する総合評価からなり、各チームの特性が即時、的確に評価された。このことで参加チームは、自チームの評価のみならず、他チームのプレゼンテーションと比較できると同時に、大スクリーンへの評点提示によるプレゼンターと聴衆および教員の間に国を越えての一体感が生まれ、交流活動の盛り上がりに大いに貢献した。

 

●形態

パワーポイントによる発表、寸劇、ニュースレポート、歌唱等、様々な形態によるプレゼンテーションが行われ、文字・音声・画像だけでなく、人間の動きと、聴衆とのインタラクションによるダイナミックなアピールの工夫を随所に行うことで、より一層の発信効果をあげることが証明された。

 

●内容

今年は“Our earth, Our home”が大テーマとして掲げられたが、各チームは、世界平和、グローバリゼーション、自然災害、国際ボランティア活動、貧困撲滅等について事前に話し合い、問題提起や解決方法についてのプレゼンテーションを行った。その結果、アジアの人々が文化や自然・社会環境の違いを認識し、人間交流を行い、各自が成長していくというASEPの目標を十分達成することができた。

 

●構成

評価の高かったものでは、1)「はじめに」において、注意喚起(問いかけ・ユーモア・意外性)と明確な目的提示が行われ、2)「本論」の論理的順序による提示が的確で、3)「おわりに」で、まとめ・目的の再提示・達成が明確に述べられていた。

 

●プレゼンテーション

評価の高かったものの特徴として、1)メモのみ準備し、自分のことばで(文章を読みあげない)、2)十分な音量でクリアに(マイクをうまく使う)、3)キーポイントをゆっくりと強調し、4)モノトーンでなく、声量・高さ・声質を変化させ、5)新項目導入は大きく高音で、6)アイコンタクト(聴衆の表情で理解度をはかる)や7)間(ま)をうまくとり、8)適宜ジェスチャーを入れ、9)笑顔を絶やさず、10)主役のように自信をもって演技を行い、11)情熱を持って発表を行っていた。

 

●パワーポイント

評価が高かったのは、1)文章ではなく、語やフレーズを提示し、2)自分の言葉でしゃべり、3)画面上を指し、4)図表・写真を活用し、5)フォント(28point以上)と行数(57)を適切に設定し、6)美しさを備えていた。

 

●今回のプレゼンテーションから見えてきたこと

1)マレーシアの一部のチーム等を除いて、通常の英語教育では習得できない「英語を使って効果的に聴衆にうったえる」プレゼンテーション英語を、より一層学ぶ必要があることが示唆された。その際、自分のことばで、ITを活用して、聴衆と効果的なインタラクションをとりながら、語りかけるための英語表現を身に付けることが不可欠であるが、そのためには、日常的にプレゼンテーションを行う機会を授業に組み込み、場数を踏むことで体得して行く方法からはじめることが有効であろう。

2)事前打ち合わせで必要な、英語を使ってコミュニケーション・説得・交渉が行える能力を、より一層養成する必要がある。UNI-1チームでは事前のネットミーティングを行ったが、台湾の学生に見られるように、日常的にネットミーティングを行うことにより、必要最低限の礼儀をわきまえた上で、不必要な飾り言葉や遠慮をすることなく、堂々と自己主張する姿勢、表現力、論理的思考力を体得させることが必要であろう。その際、教師もファシリテータとして最低限の介入を行い、スムーズな進行を促進する方法を習得することが不可欠である。

3)今回の一連のプレゼンテーションから、その到達度には次の四段階があると思われる。第一段階は、相手にメッセージを認識させる(recognize)ことができるもので、英語の明確な発音に始まり、マイクやパワーポイントを効果的に使って、必要最低限の情報を伝えることができるものであるが、発表の真の意図や熱意が必ずしも明確に伝わってこないもの(一部の発表)。第二段階は、これに、一層の熱意および明確な目的提示、論理的順序、まとめ・目的の再提示・達成が加わり、聴衆は発表の目的、意図、熱意を理解(understand)できるが、未だその主張を納得し、受け入れるまでには至らないもの(多くの発表)。第三段階は、表現力が豊かで、主張する内容に聴衆が共感し、その考え方に大きな影響を受け(influence)、意見を180度変える力を持っているもの。通常の国際交流ではこの段階で十分であるが、具体的な行動提起にまでは至らない(一部の発表)。第四段階は、提起された問題点や提案に聴衆が共感し、具体的にその解決方法に向かった行動を起こさせる(take action)力を持つもので、単なる国際交流ではなく、国際協同による活動を喚起させるもの。

 

●おわりに

今回、 “Our earth, Our home”について英語とITという媒体を通して、様々な提起、提案が「ASEPメンバー内」で行われたが、今後、ASEPメンバーは、草の根交流としてのASEPでの提案を、メディアやインターネットを用いて広く国際機関や政府、および民間団体へ発信して行くという、第四段階での国際協同による活動を通じて、高度ネットワーク社会における質の高い「媒体としての人(person as media)」となり、明るく平和な社会を築いていくことができるまで成長することができるであろう。

 

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