4. 英語教育から見たASEPWYM:活動に対する評価  大野清幸(愛知淑徳大学)

4.1. 序

 私に与えられた課題は、上記の通りです。ASEPWYM は、インターネットを利用して事前準備を行い、開催地(ASEPは高雄(台湾)、WYM は名古屋(日本))で、参加各国の発表者たちが、英語プレゼンテーションを行うという活動です。これに、ホームステイ数日とインターネットを利用した事後交流が続きます。つまり、多くの意義や側面を持っている複合的な活動です。現状、アジアの5ヶ国ほどが参加していますので、使用言語は英語となります。

 

4.2. ASEP&WYM vs. 訳読授業

 何かを研究する場合、まずは、A(研究対象)とB(比較対象)を比較して、共通点と相違点を見つけます。本章の場合、研究対象は、ASEPWYM です。比較対象として、日本の英語教育において、長い間、批判されているにも関わらず、いまだに、日本の多くの英語教師が利用している訳読授業を取り上げましょう。

 比較する際は、基準を設定します。ここでは、評価基準を3つ設定します。1−5点で、評価してみましょう。想像してみて下さい。双方を経験した生徒・学生たちに評価してもらえば、下記のようになるのではないでしょうか。

 

表1 基準1—3の観点から生徒たちが見た場合の ASEP&WYMと訳読授業の予測評価

基準1、2、3                      ASEP&WYM 訳読授業

1.(英語を使いたくなる)場面の設定             5    1

2.(準備は大変だが、全体としては)楽しく、感動体験が多い  5    1

3.動機付け(=継続して英語を使いたくなる状況・環境の設定) 5    1

 

 もちろん、ASEP&WYM の方にも、以下のように、難点と思われることもあります。

(1)通常授業に組み込むためには、努力や困難を伴う。

(2)ホームステイ先確保の関係上、ASEP 参加には人数制限がある。

(3)ASEP 参加には、約8万円の費用が必要である。

(4)ASEP&WYM 参加の日程は、ほぼ固定されている。

 

 ですから、ASEP&WYM を推進している先生方は、他の教師たちと比較すれば、御自分たちの負担が圧倒的に増えるのだけれども、生徒・学生たちに感動を味わってもらいたくて、課外授業やクラブ活動などとして、ASEP&WYM を勤務校のカリキュラムに組み込む努力をされています。これは、勤務校におけるすばらしい上司たちと同僚たちの理解があって、初めて、可能になっていることです。

 

4.3. 学習時間不足と英語コミュニケーションの必然性の有無

 日本人が英語を話せない理由には、大きなものだけでも、いくつかありますが、最大の理由は、学習(=実技=トレーニング)時間の圧倒的な不足です。(杉浦 (2000) などを参照。)多くの批判者は、この点を理解していません。とても残念な状況です。関連情報として、TOEIC の開発・作成を担当しているETS (Educational Testing Service) による以下の研究報告を記しておきます。「日本語と英語は、統語構造だけを見ても、最も大きく異なる言語グループに、それぞれ属しているため、日本語母語話者が英語を学び始めた場合、TOEICスコア600に達するためには、2000時間、本物の英語を意識的に聴く(listen to)(「聞く(hear)」ではない点に注意!)練習をする必要がある。」

 第2は、動機付けの不足でしょう。言い換えると日本人社会で生きている限り、英語コミュニケーションの必然性が無いことです。これは、日本人社会がこれまで幸せな社会であったことの証拠なのです。しかし、日本人もそのような悠長なことは言っていられない社会に、日本は変貌しつつあります。訳読授業が批判される理由のひとつも、この英語コミュニケーションの必然性が担保されない点にあります。逆に、ASEPWYM は英語コミュニケーションの必然性を確保しています。内包しています。ネットワーク活用と英語教育を組み合わせることにより、現状の英語教育に欠けている「使う場面」を創り出しているのです。

 

4.4. 今後の課題

 中正(台北)国際空港へ向かう途中、ASEP2005参加者の内、バス1号車の中では、全員で、参加後の感想を述べ合いました。最初に、影戸誠先生(日本福祉大学)は、「気の利いた言葉を聞きたい」と言われました。毎年、私の授業の受講生たちにも贈っている「志と人生計画」というキーワードを、私は、自分の話の最後で、ASEP2005 に参加した生徒・学生たちに贈りました。出発日に、暴風雪のため中部国際空港において14時間缶詰状態になっていた時、ASEPWYM を、モジュールのひとつとみなして、ライフプラン(ニング)とか、キャリアプラン(ニング)の中に位置づける(大きな構想の)必要性を考えたからです。

 日本経済新聞2006年1月9日(月)朝刊第1面「ニッポンの力8:若者よ、待っているぞ」の中にも、「気の利いた表現」がありました。「他人との協業を通じて問題解決能力や働く力を学ぶ。」「若者も社会も双方向の「対話力」を高めれば何かが見えてくる。日本の将来のためを思えば、若い力を眠らせて良いはずはないのだから。」これらの表現は、ASEP&WYM のまた別の意義や側面を的確に表しています。

 台湾側の熟練教員たちは、2006年1月6日−8日に、同じ高雄市において iEARN が主催する Natural Disaster Youth Summit

 http://www.iearn.org/projects/naturaldisasteryouthsummit.html

の準備で多忙でした。そのため、今回の台湾側指導教員は、インターン(仮採用)期間の教員を含む新人教員が多い印象でした。新人教員たちに対する今川佳紀先生(福井商業高等学校)の指南(=御活躍)を拝見し、ASEPWYM には、教員研修の意義や側面もあることが良くわかりました。すなわち、生徒に対しても、初心者教員に対しても、指導技術の細分化とモジュール化(=部品化+体系化)が、今後の課題となるでしょう。今川先生をはじめ、熟練の先生方のからだには、ノウハウがたくさん詰まっているはずですから。

 

4.5. 日本語が大切!

 主題とは趣きを異にするという印象を持たれるかもしれませんが、本章を終えるにあたり、読者の皆様に強調しておきたいことがあります。英語を学び、教えている者であればこそ、皆様に、英語帝国主義の危険性と母語(=日本語)の大切さを、しっかりと理解して頂きたいと存じます。

 詳細は、下記の文献に譲りますが、具体的な行動としては、読書を、毎日の習慣にして下さい。そして、意識して日本文化を身につけましょう。まずは、下記をお読み頂ければ幸いです。

 

藤原正彦 2003. 『祖国とは国語』 講談社 1575円

藤原正彦 2005. 『国家の品格』 新潮新書141 714円

藤原正彦 2005. 『祖国とは国語』 新潮文庫 420円

 

4.6. 参考情報源(参考文献の代わりとして)

 

 http://www.google.co.jp/

 

 上記の検索エンジンにおいて、下記の表現で検索してみて下さい。2006年1月5日(木)現在の、検索総数などを記しておきます。

 

WYM2005=36件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=WYM2005&lr=lang_ja

 

ASEP2005=16件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=ASEP2005&btnG=Google+%8C%9F%8D%F5&lr=lang_ja

 

ASEP2005=139件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&ie=Shift_JIS&q=ASEP2005&lr=

 

英語を使いたくなる=283件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%89p%8C%EA%82%F0%8Eg%82%A2%82%BD%82%AD%82%C8%82%E9&lr=lang_ja

 

日本人が英語を話せない理由=121件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&ie=Shift_JIS&q=%93%FA%96%7B%90l%82%AA%89p%8C%EA%82%F0%98b%82%B9%82%C8%82%A2%97%9D%97R&lr=lang_ja

 

日本人が英語を話せない=280件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%93%FA%96%7B%90l%82%AA%89p%8C%EA%82%F0%98b%82%B9%82%C8%82%A2&lr=lang_ja

 

杉浦正利 2000. 「なぜ8年も英語を勉強してもできるようにならないか」

 『名古屋大学言語文化部だより』

 http://oscar.lang.nagoya-u.ac.jp/~sugiura/hawaii/hawaiidayori2.txt

 

杉浦正利=636件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%90%99%89Y%90%B3%97%98&lr=lang_ja

 

 http://www.lang.nagoya-u.ac.jp/~sugiura/eigoadobaisu.html

 

英語学習のアドバイス=371件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%89p%8C%EA%8Aw%8FK%82%CC%83A%83h%83o%83C%83X&lr=lang_ja

 

英語学習の助言=6件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%89p%8C%EA%8Aw%8FK%82%CC%8F%95%8C%BE&lr=lang_ja

 

私の英語学習法=20000件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%8E%84%82%CC%89p%8C%EA%8Aw%8FK%96@&lr=lang_ja

 

"英語学習法"=410000件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%22%89p%8C%EA%8Aw%8FK%96@%22&lr=lang_ja

田尻悟郎=1240件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%93c%90K%8C%E5%98Y&lr=lang_ja

 

英語は実技だ=127件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%89p%8C%EA%82%CD%8E%C0%8BZ%82%BE&lr=lang_ja

 

英語は実技=241件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%89p%8C%EA%82%CD%8E%C0%8BZ&lr=lang_ja

 

千田潤一=18400件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%90%E7%93c%8F%81%88%EA&lr=lang_ja

 

英語はトレーニングだ=265件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%89p%8C%EA%82%CD%83g%83%8C%81%5B%83j%83%93%83O%82%BE&lr=lang_ja

 

英語はトレーニング=258件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%89p%8C%EA%82%CD%83g%83%8C%81%5B%83j%83%93%83O&lr=lang_ja

 

英語は練習だ=0件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%89p%8C%EA%82%CD%97%FB%8FK%82%BE&lr=lang_ja

 

英語は練習=105件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%89p%8C%EA%82%CD%97%FB%8FK%82%BE&lr=lang_ja

 

TOEIC=2010000件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=TOEIC&btnG=Google+%8C%9F%8D%F5&lr=lang_ja

 

 http://www.toeic.or.jp/

 

"Educational Testing Service"=1120000件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%22Educational+Testing+Service%22&lr=

 

 http://www.ets.org/redirect/research.html

 

 http://www.ets.org/

 

 http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/intl/daisycon/about_us/ets.htm

 

"人生計画"=47100件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%22%90l%90%B6%8Cv%89%E6%22&lr=lang_ja

 

ライフプランニング=116000件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%83%89%83C%83t%83v%83%89%83%93%83j%83%93%83O&lr=lang_ja

 

ライフプラン=1330000件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%83%89%83C%83t%83v%83%89%83%93&lr=lang_ja

 

キャリアプランニング=65700件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%83L%83%83%83%8A%83A%83v%83%89%83%93%83j%83%93%83O&lr=lang_ja

 

キャリアプラン=323000件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%83L%83%83%83%8A%83A%83v%83%89%83%93&lr=lang_ja

 

モジュール化=287000件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%83%82%83W%83%85%81%5B%83%8B%89%BB&lr=lang_ja

 

部品化=183000件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%95%94%95i%89%BB&lr=lang_ja

 

体系化=173000件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%91%CC%8Cn%89%BB&lr=lang_ja

 

原田隆史=34200件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%8C%B4%93c%97%B2%8Ej&lr=lang_ja

 

"成功学"=1790件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%22%90%AC%8C%F7%8Aw%22&lr=lang_ja

 

"成功学" リーチング=2件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%22%90%AC%8C%F7%8Aw%22%81@%83%8A%81%5B%83%60%83%93%83O&lr=lang_ja

 

リーチング 原田隆史=83件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%83%8A%81%5B%83%60%83%93%83O%81@%8C%B4%93c%97%B2%8Ej&lr=lang_ja

 

藤原正彦=132000件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%93%A1%8C%B4%90%B3%95F&lr=lang_ja

 

国家の品格=324000件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%8D%91%89%C6%82%CC%95i%8Ai&lr=lang_ja

 

祖国とは国語=890件

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&inlang=ja&ie=Shift_JIS&q=%91c%8D%91%82%C6%82%CD%8D%91%8C%EA&lr=lang_ja

 

 

謝辞

筆者の問い合わせに対して、杉浦 (2000) の文献情報を御教示下さった杉浦正利先生に感謝致します。